自動車メーカーのマツダさんはマツダ「サステイナブル“Zoom-Zoom”宣言2030」で、電動化戦略に触れています。特に、その中でWell To Wheelに関しては、CSR特集(スクリーンショット: 1 2(該当部分) 3 4)で語られている内容が興味深く、
ライフサイクルの後半になると、バッテリーの性能を維持するためにバッテリー交換が発生するため、小さいバッテリーサイズのEVと、内燃機関車のCO2排出量はほぼ同じになりました。
とのこと。ホントでしょうか?
(注/Well To Wheelはウェル・トゥ・ウィールと読みます)
実際にマツダさんが参照している論文はこちら。マツダの社員の方5名と工学院大学の方2名が書かれたもので、内容そのものは検証したところ大きな問題はありませんでした。しかし、当該論文は多くの前提が使われており、一部の前提は古く現実に即していないため、そこから導かれた論文の結論は現実的ではない、というのが私の見解です。
マツダさんの論文の計算式を使って、前提条件をいくつか現実的な値に変えた結果で、電気自動車が75kWhという大容量バッテリーを搭載したとしても、「少なくとも日本国内において」同等車格のガソリン車よりもWell To Wheelで、CO2の排出は少なくエコである、という点を確認してみましょう。
目次
前提条件
ガソリン車と電気自動車のサイズをほぼ同じとし、シャーシを製造するにあたっての排出量は同一と仮定します。エンジンはガソリン車にのみ存在し、モーターとインバーターは電気自動車にのみ存在します。これ以外で大きなものは、電気自動車の電池がありますが、これは次で別途試算します。ガソリン車にはこれ以外にトランスミッション(注、電気自動車にもギアはありますが、変速機能・バックギアは必要ありません)や排気系・触媒といった大物がありますが、ここでは計算に入れません。

またマツダさんの論文では電気自動車のバッテリーに寿命があるという前提で、16万キロでバッテリーを交換するサイクルをメンテナンスに含めています。しかし世界中の350台のテスラモデルSを対象にした調査から、現実に25万7千キロでバッテリー劣化が10%に達するというデータがありますので、バッテリーの交換は不要とします。
最後にクルマの寿命が来て、廃車にするときのリサイクルに関する排出です。こちらは、マツダさんの論文では分解するところまでの排出に限定されており、そのあとの処理についてはスコープ外となっています。また分解するための排出はガソリン車も電気自動車も同等という前提です。そのため、今回の計算およびデータには、この排出は含めていません。
ただ気になるのはバッテリーの廃棄ですよね。バッテリーを分解したのち、廃棄する場合のデータについてはまだ情報が少なく、唯一IVL 2017(2019年版には含まれていません)には15kg-CO2eq/kWhとの数値があります。つまり、35.8kWhのバッテリー容量を持つ電気自動車については537kg、75kWhについては1125kgのCO2が廃車時に排出されると考えてよいと思います。この数値を、最後に足して比較すればよいでしょう。
リチウムイオン電池の製造時排出
電気自動車に搭載される電池の製造時排出の前提は以下の通りです。
表の上から6個のデータがマツダさんの論文で使用されているデータで、実際の計算にあたってはこれらの平均値が用いられています。表にも、「マツダ論文平均値」として記載しています。
マツダ論文平均値より下にある数字3つは私が引用もしくは計算した数字です。まず最初の「マツダ論文平均値(NMCのみ)」は、当該論文にあった6つの数字のうち、日本・米国・欧州では乗用車用の電池としては使われていないLFPを除いて、よく使用されているNMCに限定したものです。原論文は中国も対象にしているのでLFPを含めているのでしょうね。
その次のIVL2019というのはこちらの論文で、スウェーデンのIVL Swedish Environmental Research Instituteという団体が2019年に出している、最も最近の数値になります。実はIVL Swedish Environmental Research Instituteは2017年にも同様の研究結果を出しており、その時の電池製造にかかる排出は1kWhのバッテリー当たり150-200kgと、マツダさんの論文の数値と同等だったのですが、その後の電池生産規模の拡大に伴う効率化により、排出量を1kWhあたり61-106kgと推測しています。この値のうち、最大値106kgと中央値の83.5kgを前提に含めてみたいと思います。
燃費基準
マツダさんの論文では、地域別に排出を分析しており、燃費基準においては各国の燃費基準値が使われています。これはある意味公平に見えるのですが、こと日本においては、アイドリング時間が長く取られており、加減速が少なく、高速走行の含まれないJC08基準はガソリン車に非常に有利です。また道路でドライバーが乗っても、実際にJC08基準値を誰も達成できないのですから、現実的な前提とは言えません。
そこで公平かつ現実的な基準値として、当サイトでも常に用いている米国EPA基準を用いたいと思います。当然ガソリン車も電気自動車も同じ基準を用います。電気自動車の電費の記事でも解説していますが、JC08基準と同様、EPA基準でも、電力は外部から給電した電力量を使用しており、充電・放電ロスは数値に含まれています(=ガソリン車に対して公平)。
今回具体的に車を想定するのは難しいのですが、ガソリン車はせっかくなのでMAZDA 3のSKYACTIVE-X搭載、X PROACTIVEのWLTCモード燃費から、試算でEPA燃費を求めたいと思います。WLTCはグローバルで標準化された燃費であり、JC08>>WLTC>EPAの順に、基準が厳しくなっています。
ちょっと待てよ! なんでちゃんとEPAで認定されている数値を使わないのか? 実はこの車両、米国では2.5リッターSKYACTIV-Gエンジン搭載車しか設定されておらず、日本の(より進化した)2リッターSKYACTIVE-Xエンジン搭載車はラインアップされていないのです。WLTC値とEPA値の変換はDavid Roper氏が計算された式があり、WLTC値はEPA値の1.121倍と推定可能です。換算後のEPA燃費推定値は15.3km/lとなります。
電気自動車はと言えば、今回75kWhということでテスラ モデル3 ロングレンジを比較対象にしましょう。EPA電費は26kWh/100miなので6.19km/kWhです。
検証
今回の検証にあたっては、ガソリン1リットルを燃やした場合に出るCO2排出を2320g(出典)と仮定しました。
Well To Wheelでは、原油を採掘・精製してガソリンスタンドまで輸送するために必要な排出、電気を発電するために必要な燃料の採掘・輸送に必要な排出も加える必要があります。マツダさんの論文ではGaBiというライフサイクルアセスメント企業が出しているデータを参照して、これらの排出を計算しているとのことでした。このGaBiのデータは、ソフトウェアで購入したり、Excelで購入することも可能なのですが、ライセンス契約において数値を公開することが禁じられているのです。そのため私も実際に日本におけるレギュラーガソリンと、日本における電力の排出原単位(単位当たりのCO2排出量)を購入したのですが、計算に使ったGoogle Sheetをそのまま公開することはできませんでした。あらかじめご了承ください。
では結果です。(スマホの場合は指で左右にスクロールできます)
横軸にクルマの走行距離、縦軸で、ガソリン車と電気自動車のWell To Wheel排出量が比較できるようになっています。電気自動車については全部で4パターン。最初の二つはマツダさんの論文の前提通りに35.8kWhバッテリー搭載車と75kWhバッテリー搭載車を比較したもの。その次はマツダさんの前提ではなく、2019年の新しい電池の製造時排出のデータを使った試算で、最も排出量の多い106kg-CO2eq/kWhのパターンと中央値の83.5kg-CO2eq/kWhのパターンを出してみました。
電気自動車については、廃車時に35.8kWhのバッテリー容量を持つ電気自動車については537kg、75kWhについては1125kgの排出を追加してみることを忘れないでください。
どうですか?
背景が緑になっているところは電気自動車のほうがWell To Wheelで排出が少ない走行距離、赤はその逆となっています。よく言われているように新車時は電気自動車のほうが排出が多いですが、マツダさんが前提としているバッテリーの製造時排出値を用いても、9万キロ走行時点で電気自動車のほうが、排出量が少ないことが分かります。
最も現実に近いと思われるIVL 2019の平均値を用いると、
9万キロで、バッテリー75kWhを搭載する電気自動車テスラモデル3ロングレンジのほうが、ガソリン車MAZDA3 X PROACTIVE 2WD(6EC-AT)よりWell To Wheelで排出が少ない
ことが分かります。廃車時のリサイクル分を入れても11万キロ。
結論として、「ガソリン車と電気自動車は、Well To Wheelすなわちライフサイクルでの排出は同等か、9-11万キロ以上走行する場合は電気自動車のほうが少ない」と言っていいのでしょうか?
当記事の計算ではIVL 2019の中央値86gを用いて計算しました。しかし、Northvoltやフォルクスワーゲン、テスラのように、電池生産に100%再生可能エネルギーを使うとコミットしているメーカーもあります。IVL 2019ではこのような場合、電池の製造時排出は61g-CO2eq/kWhの値を推測しています。これによりバッテリーの製造時排出は27%も減少します。
さらに、電力会社は毎年排出量の削減を図っています。今後各電力会社において再生可能エネルギーの割合が増加し、排出量が低減することにより、ガソリン車が電気自動車のライフサイクル排出量を、Well To Wheelで下回ることは恐らくないものと推測できます。
(安川 洋)
"電気" - Google ニュース
March 09, 2020 at 05:16PM
https://ift.tt/3aAK1kw
マツダさんの Well To Wheel 計算は正しく、電気自動車のライフサイクルCO2排出はガソリン車より多いのか? - EVsmartブログ
"電気" - Google ニュース
https://ift.tt/2seGzvp
Shoes Man Tutorial
Pos News Update
Meme Update
Korean Entertainment News
Japan News Update
Bagikan Berita Ini
0 Response to "マツダさんの Well To Wheel 計算は正しく、電気自動車のライフサイクルCO2排出はガソリン車より多いのか? - EVsmartブログ"
Post a Comment