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新型コロナ事態と世界の自動車業界 第1回:イタリア編 - GQ JAPAN

前年比マイナス85.4%の3月度新車登録台数

月曜日から金曜日まで毎日2回、午前10時半と午後2時半きっかりに送られてくるフランス自動車工業会のニュースレターは、ここひと月あまり、欧州の自動車関連工場のライン停止と販売台数低下の記事で埋まっている。

日頃はサプライヤーをふくめた欧州自動車産業界の細かな人事異動まで掲載されるが、現在はまったく見られない。コロナの影響一色。画面から悲鳴が聞こえそうだ。自動車産業もウィルスに侵されたことを実感する。

今回は、世界のなかでも殊の外大きな被害を受けたイタリアの自動車界についてレポートしたい。

よく知られているように、イタリア国内でもっとも感染者数が多いのはミラノを州都とするロンバルディア州だ。アルファ ロメオやピレリの生まれ故郷である。ミラノのとなりにある市、最大の死者数を記録したベルガモにはブレンボの本社がある。ロンバルディアと西で隣接するのはFCAのお膝元、トリノのあるピエモンテ州。南側にはエミリア=ロマーニャ州が控える。住民の血がガソリンで出来ていると言われるほど、自動車産業と結びついている土地だ。ここにはフェラーリランボルギーニはもちろん、多くのサプライヤーが集中している。今回、イタリアでもっとも多くの感染者が出たのがこの3つの州。イタリア自動車製造の三都と呼ばれる地域が直撃されたのである。ちなみに4番目はヴェネチアを有するヴェネト州。高い技術力を持つ中小企業が点在する区域だ。1万人以上の感染者が出たのはイタリア経済を牽引するこれら4つの州だけである。

フェラーリの本社があるイタリア共和国エミリア=ロマーニャ州モデナ県マラネッロ。

政府の決定によっては延長の可能性も十分あり得るが、現在のところ4月13日までイタリア国内の自動車関連工場はすべて生産を休止している。海外にある工場のラインを減らして稼働させているメーカーもあるものの、僅かだ。フェラーリは感染者が増え始めた時点で自主的に工場を閉鎖した。イギリスも含めて欧州諸国全体では1日のライン停止で7万5000万台、イタリア国内では4875台の生産が滞る。

一方でとうぜん販売、購入ともにストップしている。ディーラーによっては納車を封鎖解除後とした上でネット注文も受け付けているが、反応は極めて鈍いという。

運輸省の発表によれば3月の新車登録台数(乗用車)は前年比マイナス85.4%の2万8326台。国内占有率トップを占めるFCAはマイナス91.18%、全ブランドあわせて2794台。それでもよくこの数が登録されたと思う。「イタリアに現在、自動車マーケットは存在しない」と、こう言われる状況に陥っている。

販売台数100万台割れも想定

今のところイタリア自動車工業会(ANFIA)の用意したシナリオは2つ。発信元自ら“楽観的”とするシナリオは、5月中に全土にわたって封鎖が解除され日常が再開するというもの。

この場合、2020年の販売台数はおよそ130万台と見込まれている。10年前の販売台数に匹敵するというが、2019年の販売台数との差はおよそ60万台。封鎖前の段階ですでに前年比マイナスだったから、半年でこの数字まで回復できるのかは疑問である。

最悪のシナリオは、封鎖が6月になだれ込むというもの。日常の再開は夏の休暇を挟んで9月となるため年間販売台数は100万台割れすると予想している。

いずれにしてもふたつのシナリオは、ユーザー側の購買意欲が復活し、メーカー側のクルマの部品調達が円滑に進むことを前提してのこと。実はこの点こそもっとも不透明だ。国民の大多数が経済的な打撃を受けているからクルマ購入どころではない。この可能性は非常に高い。魅力的なモデルこそあれば、食指を動かされるかもしれないが、たとえばジュネーブショーで発表されるはずだった話題の1台、フィアット500EV」の生産は予定通り進むのか、はっきりしない。FCAは、封鎖解除後、国内で生産されることになる500EVとジープ「コンパス」、そしてセルビアで作られる「500L」については、部品供給に問題があるようで、段階的な生産開始/再開としている。

フルEV(電気自動車)の新型フィアット「500EV」。

ANFIAは国民の購入意欲を高めるためにインセンティブの増額、保険料の軽減のほか、企業への助成金、税免除など、盛り沢山の要求を政府に対しおこなうという。工場停止に伴う従業員の休業扱いをレイオフ(給料は80%となる)とするのか、通常の労働時間にカウント、有給休暇と見なすのか、この辺りも交渉がのぞまれるものの、政府は今、感染者数の食い止めに手一杯。経済支援についてはすべての分野で滞っている。

各メーカーは今?

一方でメーカー側は幹部の報酬減額などから手をつけはじめた。FCAの取締役は年内いっぱい減俸もしくは無給を発表したが、注目すべきは多くのメーカーが現況のなかで社会のために「できること」を始めたことだろう。寄付、医療物資の提供、輸送協力はわりに早い時期にスタートしている。

ちなみに寄付についてはピレリの従業員が7000時間分のサラリー(およそ22万€)を地元の病院に差し出したという素晴らしいニュースもあった。現在はさらに踏み込んだ医療支援も見られる。

たとえばランボルギーニはマスクと保護シールドの生産を自社工場で行っている。前者は日産1000枚。後者はコンボジット素材を使い日産200個が3D印刷によって製作されているという。

マスクを急ピッチで製造するランボルギーニの写真。

ランボルギーニとおなじエミリア=ロマーニャ州にあるFCA工場は、ラム・トラック用のV型6気筒エンジンに変わって、集中治療室用人工呼吸器をラインに載せる。イタリア国内で唯一、ハイレベルの呼吸器生産ノウハウを持つシアレ・エンジニアリングの指導のもとに、FCAとフェラーリ双方のエンジニアも参加して短期間に4000台を確保する予定だ。まさにいま、この国が必要とすることをしているのである。

「今、やるべきこと」を粛々と

最後に、取材や試乗ができなくなったことでこれまた大きな打撃を受ける自動車専門誌の取り組みを紹介する。

イタリアのクルマ・メディアを代表する『クアトロルオーテ』は3月30日に欧州メーカーに対するEUの排ガス規制(2020年内に企業平均燃費を95gまで削減と規定した)の達成期限の延長を求める論説を掲載、反響を呼んでいる。このノルマに縛られてメーカーの立ち直りが遅くなることを避ける狙いだ。

続いて4月3日には同じくネット版で「#BACKONTRACK』というムーブメントを立ち上げた。まだ始まったばかりなので具体的にどう進められるのかは不明であるが、自動車ファンのプラットフォームとなることをうたう。移動の自由を奪われるという今回の経験を通し、もう一度、自動車について考え、語り合い、“みんなでクルマを盛り上げよう”ということのようだ。ユーザーとメーカーの垣根を取り払い、自動車に関わるものすべてが一丸となって”クルマの復活”をめざす。

欧州の中でもながく経済が停滞しているイタリアへの新型コロナウイルスの影響は計り知れない。しかし現況を見る限り、この国の自動車界はメディアも含めて「今、やるべきこと」を粛々とおこなっている、そんな印象を受けている。

文・松本葉

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April 05, 2020 at 07:05PM
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