国内自動車メーカー各社の本決算発表が始まった。先日公表されたトヨタ自動車は今年度の売上高が20%減少し、営業利益は80%減少するという衝撃的な業績予想を発表した。新型コロナウイルス感染症拡大に伴う自動車産業の業績悪化が顕著となっている。(中西孝樹)
弊社が集計する国内自動車産業主要6社平均の世界工場稼働率は4~6月期に40%に落ち込むとみられ、これはリーマン・ショックや東日本大震災直後の50%をさらに下回るものとなる。
新型コロナは、歴史的な自動車生産・販売活動の混乱と景気後退を生み出すことは不可避な情勢となった。ただ、むやみに不安をあおることには意味はなく、その先に適切な経営的な楔(くさび)を打ち込むことが重要である。
2020年の世界新車需要は前年比20%前後の減少は不可避というのが、現時点の世界的なコンセンサスだ。グローバルSAAR(季節調整後年率換算レート)の1~3月期推定値は前年同期比24%減少している。4~6月期予想が35%減、7~9月期に11%減、10~12月期は2%減となり、20年は前年比18%減をわれわれは予想する。
幸い、4月の米国・中国の新車販売台数は懸念したよりは底堅く推移している。まずはV字回復が可能だと考えている。上半期のロックダウン政策で買い損ねた潜在新車需要が顕在化、失業者に対する手厚い失業給付手当金が存在、需要喚起政策の発動が段階的に進むなど、短期的な回復を悲観視するものではない。
一方、中長期的なトレンドは読みづらい。抗ウイルス剤やワクチンの準備がどこまで整うか、コロナ後の世界経済の回復が持続可能か否かなど、中期的な回復シナリオは不確定要素が大きい。懸念は需要面だけではない。販売金融資産を有する自動車産業は米国を中心に評価減の影響も多大となる。
われわれの試算では、中古車価格下落15%、失業率10%を前提とした場合、米国金融事業を有する大手3社合計だけで8755億円の損失が発生するリスクがある。これはリーマン・ショックの09年3月期に計上した3767億円を上回る規模となる。
金融事業からの多大なノイズも加われば、1~3月期に赤字に転落し、4~6月期にはリーマン・ショックを超える衝撃的な赤字スパイクをつける可能性もあるだろう。新型コロナの自動車産業への短期的な影響は、リーマン・ショックのそれを超えるリスクが高い。
ただ、重要な違いを3点認識すべきだろう。リーマン・ショックは起点が金融システム危機であり、長期にわたって需要後退→生産調整→業績悪化の負の連鎖に見舞われた。新型コロナは、経済活動が停止され瞬間的に最悪ボトムに達するが、経済活動の回復とともに業績もV字回復が可能だ。
リーマン・ショックは需要後退から生産調整へ数カ月もの長いリードタイムが存在し、在庫圧縮が生産混乱を長期化させた。今回は需要消滅と生産調整が同時に進んでおり、在庫問題が生じない。需要喚起政策が発動できれば、生産活動も同期して急回復が可能である。
新興国シフトや固定費30%削減など、リーマン・ショックは自動車産業に多大な構造変化をもたらした。新型コロナがいかなる構造変化を引き起こすのか、いまだ先行きは不透明。アフター・コロナ時代の構造変化の論議が今後の重要な論点である。
【プロフィル】中西孝樹
なかにし・たかき ナカニシ自動車産業リサーチ代表兼アナリスト。米オレゴン大卒。山一証券、JPモルガン証券などを経て、2013年にナカニシ自動車産業リサーチを設立。著書に「CASE革命」など。
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May 16, 2020 at 05:15AM
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